2016/08/03
夏目漱石の「こころ」を読んだ感想とあらすじについて書いてみたいと思います。
この作品について、おそらく学生の頃、国語の授業で一度は目にしたことがあるという人も多いことでしょう。
2016年で夏目漱石が亡くなってからちょうど100年が経つということだそうで、書店でふと目に入ったのがきっかけで、再び読んでみたのでした。
そんな教育の現場でも定番となっているほどの良書で、昔から広く読まれている作品なんですが、大人になった今読み返してみた結果、当時は気づきもしなかった登場人物たちの複雑な心境が伝わってきました。
先生もKも自殺をしてしまうという結末としては暗い作品ですが、複雑な人のこころの葛藤が描かれていてとても読み応えのある作品でした。
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こころのあらすじ
こころは全3章「先生と私(上)」「両親と私(中)」「先生と遺書(下)」から構成されています。
あらすじとしては、第3章「先生と遺書(下)」から読み取れる、
先生は親友のKを裏切って恋人を得ることに成功したが、それをきっかけにKは自殺をしてしまう。
そのことを日々苦悩しながら生きていたが、最後には自分も自殺を選んでしまうのだった。
という内容がその大部分と言えます。…本当にめちゃくちゃ荒いですが(笑)
学校の授業では、ほとんど3章の文章を使われていたように思います。
ていうか、3章って全部先生の遺書の内容そのまんまだったんですね〜(゚Д゚)
現代っ子からのツッコミがおもしろい
100年も前の作品を読んだ現代の人間からの視線は意外とシビアです!
例えば、さっきの3章が全部「先生の遺書」となっていることに対して
・遺書長すぎやろどんだけノリノリやねん
・手紙長過ぎるしそもそもあの手紙が四つ折りで封筒ってどんだけパンパンだよ
・遺書書いてる最中に「俺文才あるやん!」とはならなかったんかな
・未練たらたらにもほどがある
・どうでもいいけど遺書長すぎだよ…とか思ってたけど興味もって教科書以外の完全版読んだらさらに長くて草生えた
・定番ネタだけど、文庫本にして150ページ以上あるクソ長い遺書を四つ折りにするおちゃめな先生
・・・冷静なツッコミの数々(笑)
ダメでしょーそういうこと言っちゃあ〜(゚Д゚)
また、この作品は明治時代から大正時代に移り変わろうとしている時代を背景としているので、どうしても現代の人には理解しにくい描写もあります。
そして先生やKはなぜ自殺したのか?についても、いろんな見方があるようです。
人の心の読み取り方は千差万別なので、どれが正解とかはなく、ここに「こころ」の複雑さが現れています。
では次に、僕が読み取った「こころ」について記述してみることにします。
Kと先生が自殺をした理由は本質的に同じ
学生の頃に読んだ時は、Kは失恋のショックが原因で自殺してしまったのだろうと考えていました。
そして、先生は自分のせいでKが自殺してしまったことを悔いて自殺してしまったのだろうと考えていました。
あらすじだけを読み取れば、たしかにこのようにも受け取れます。
もちろんこれらも間違いではないんだろうけど、もっと根本的な原因として、Kも先生も「自分が許せなくなった」のが一番の理由であるように思います。
二人が自殺した原因として読み取れるものはそれぞれ次の3つです。
Kが自殺してしまった理由
(アニメ版のKの扱いw)
- 好きな人を取られてしまったこと
- 親友だと思っていた人から裏切られたこと
- 自分の信条とする「精進の道」に反することをしてしまったこと
Kはお寺の出身で、日頃から精進することをモットーとしている人間のようです。
そのKのストイックっぷりが分かる描写がこちら。
精神的に向上心がないものは馬鹿だといって、何だか私をさも軽薄もののように遣り込めるのです。
「下 先生と遺書 30」より
親友に対しても遠慮なくこういった言葉を投げかけるKは、日々成長を求めており「自分にも他人にも厳しい人」で、筋金入りの真面目くんなんでしょうけど、身近にこんな人がいたらちょっと付き合いにくいかも、と思ってしまいます^^;
そして、この真面目さが後に自分を苦しめることになってしまいます。
Kのモットーとする精進には禁欲も付属するものであり、その禁欲の中には「恋愛」の類も含まれているのです。
後の場面で先生に対し、恋愛相談を持ちかけるも「精神的に向上心がないものは馬鹿だ」というかつて自分が言い放った言葉を返され、そのことに気づきます。
そして「僕は馬鹿だ」と意気消沈してしまうのでした。
「自分の信条に反することをしており、そのことを棚に上げて他人を批判していた自分が許せなくなった」
ここにKが自殺したもっとも大きな要因があるのではと思います。
先生が自殺してしまった理由
- 親友を裏切ってまで恋人を得たこと
- 自分のしたことが影響して親友が自殺してしまったこと
- 自分自身が、自分の忌み嫌う「いざという時に悪人に変わる人間」だったことに気づいたこと
先生は過去に人間関係でトラブルを経験しており、人間に対して疑う心を持ってしまっています。
私は人に欺かれたのです。
しかも血のつづいた親戚のものから欺かれたのです。私は決してそれを忘れないのです。
私の父の前には善人であったらしい彼らは、父の死ぬやいなや許しがたい不徳義漢に変わったのです。
私は彼らから受けた屈辱と損害を子どもの時から今日まで背負わされている。
「上 先生と私 30」より
まさか!と思う人からの裏切りは相当なトラウマを植え付けられます。
先生はこの裏切りに対して「絶対に許さない」という気持ちを強く持っており、この経験から次のような考えを持つに至ったのでしょう。
君は今、君の親戚なぞの中に、これといって悪い人間はいないようだといいましたね。
しかし悪い人間という一種の人間が世の中にあると君は思っているんですか。
そんな鋳型に入れたような悪人は世の中にある筈がありませんよ。
平生はみんな善人なんです、少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。
「上 先生と私 28」より
それほどまでに自分が忌み嫌っていた人種だったわけですが、
いざ「好きな人が奪われてしまうかもしれないという自分の利害」が絡むと、結局同じように、親友を出し抜いて裏切ってしまいます。
自分もまた同じように「いざという時に悪人に変わる人間」だったことに気づき、そんな自分が許せなくなった。
ここに先生が自殺したもっとも大きな要因があるように思います。
どちらも過去の自分の行ってきたこと、考えてきたことに一貫性があり(ていうかストイックすぎる)、人としてはとても尊敬できるのですが、逆にそれに縛られてしまって苦しんでいます。
これは近年蔓延っている、ご都合主義の人間とは対局にある存在といえそうです。
ご都合主義の人間は基本的に「自分に甘く、他人に厳しい」で、過去の自分の発言や行動にもロクに責任を持たず、その場その場で都合の良い論理を展開します。
こういった人種には先生やKの「こころ」を理解することはできないでしょう。
というわけで、個人的に思う、彼らが自殺してしまった理由を書いてみました。
印象に残ったフレーズ
ここでは、作中での描写について印象に残ったフレーズについて触れてみたいと思います。
「あなたは本当に真面目なんですか」と先生が念を押した。
「私は過去の因果で、人を疑りつけている。だから実はあなたも疑っている。しかしどうもあなただけは疑りたくない。あなたは疑るには余りに単純すぎる様だ。私は死ぬ前にたった一人でいいから、他を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。あなたは腹の底から真面目ですか」
「上 先生と私 31」より
「腹の底から真面目ですか」という問いがいろんな意味で重い(笑)いつかだれかに放ってみたい質問(´∀`)
私は何千万といる日本人のうちで、ただ貴方だけに、私の過去を物語りたいのです。
あなたは真面目だから。あなたは真面目に人生そのものから生きた教訓を得たいと言ったから。
私は暗い人世の影を遠慮なくあなたの頭の上に投げかけて上げます。
しかし恐れてはいけません。暗いものをじっと見つめて、その中からあなたの参考になるものをおつかみなさい。
「下 先生と遺書 2」より
「貴方」が単なる好奇心で聞いているのではなく、人の事例から自分の身になる部分を取り込もうという真面目な姿勢から聞いているのだとわかったから、先生も覚悟を決められたのだと思います。
信用できる人が見つかってよかったね先生!!
私は自分の品格を重んじなければならないという教育からきた自尊心と、現にその自尊心を裏切している物欲しそうな顔付きとを同時に彼らの前に示すのです。
「下 先生と遺書 16」より
「理性と本能が自分の中で闘っている葛藤」を別の言葉で表した一文。とても美しい表現だと思いました。
こっちでいくら思っても、向こうが内心他の人に愛の眼を注いでいるならば、私はそんな女と一緒になるのはいやなのです。
世の中では否応無しに自分の好いた女を嫁にもらって嬉しがっている人もありますが、それは私達よりよっぽど世間ずれのした男か、さもなければ愛の心理がよく呑み込めない鈍物のすることと、当時の私は考えていたのです。
「下 先生と遺書 34」より
わかる・・・わかるよセンセぇ!!
女には大きな人道の立場から来る愛情よりも、多少義理をはずれても自分だけに集注される親切を嬉しがる性質が、男よりも強いように思われますから。
「下 先生と遺書 54」より
…それって不良の常套手段のモテテクのことだよね!?
終わりに
さて、「こころ」を読んだ感想について長々と書いてきました。
100年経った今でも色褪せることなく、新たな気づきを与えてくれる作品を生んだ夏目漱石の偉大さを改めて感じました。
フィクションの作品といえど、現実を生きる人間にとって見習うべき点もたくさんあったように思います。
ご都合主義の人間にこそ読んでほしいとも思いました(笑)
また、高校生の頃に読んだうろ覚えの記憶が補完されたようで、スッキリもしました!
というわけで、今回の記事がこれからこの作品を初めて読む学生をはじめ、改めて読み返してみようと思う大人たちにとって、より深く作品を味わえる材料になれば嬉しいです。
Q.もし自分も先生と同じ状況になったらどうしますか?
これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学 / 原タイトル:JUSTICE (ハヤカワ文庫 NF 376)[本/雑誌] (文庫) / マイケル・サンデル/著 鬼澤忍/訳
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by 小藪千豊の正論がおもしろい件。ハロウィンのゴミ問題がクソすぎる件。 | 青い足跡 2016年10月26日02時48分 2:48 AM